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コラム:医療法人化のメリット

個人開業医の法人成り
~医療法人化することのメリットは

「個人開業医、医療法人にするのと、どちらが良いか」

 

多くの個人開業医の先生が、お考えの問題ではないでしょうか。

 

一般的に、法人成りの検討は

 ● 事業上の必要性

 ● 運営管理

 ● 税務上の取扱い

 ● 事業承継

という4つの観点を中心として、メリット・デメリットを比較検討していく必要があります。

 

医療法人にするかどうかの検討も、この基本的な考え方は株式会社への法人成りと変わりませんが、株式会社と医療法人は、その制度において大きく異なるところがあります。

 

考える切り口は同じでも、制度の違いが与える影響を考慮して行うことが重要です。

医療法人化のメリット

医療法人化のメリットとして、主に次の3つのポイントがあります。

事業展開の可能性が向上する

(1)経営基盤の強化と対外的信用力

医療法人という、個人とは別人格を設けることにより、医業に使用される資金と個人の生活資金は明確に区別され、財政状態や経営成績をより明確に把握することができるようになります。
また、個人よりも法人組織の方が「社会的信用力」が高いと受け止められる傾向から、金融機関からの融資、職員募集などにおいても有利に働くことも期待されます。

(2)事業上介護・福祉事業への参入

老人保健施設の開設など、個人開業医では行うことができない介護・福祉事業へも参入できるようになります。

(3)分院の開設

他の医師を管理者として置くことにより、分院を開設することが可能になります。

「医業の永続性」を確保して事業承継がスムーズに

個人開業医の場合、事業用財産(土地、建物、備品)の所有権は個人に属します。

したがって、病院や診療所をご子息に相続したり、他者へ承継するという場合には、個々の財産ごとに権利変更を行わなければなりません。
もし、相続の際に事業用財産の円滑な承継が出来なかった場合には、「医業の永続性」に重大な懸念が生じてしまうかもしれません。

この点について医療法人の場合は、病院や診療所の開設等の行政上の認可や事業用財産の所有権はすべて医療法人に属することとなるため、事業承継は「経営者の交替」という手続きのみでスムーズに行うことが期待されます。

「医業の永続性」を確保して事業承継がスムーズに

(1)税率

超過累進税率で最高50%の税率で課税される個人に比べて、法人税は一律(中小法人の場合は2段階)の税率で課税されるため、所得が高ければ単純に適用税率の比較のみで医療法人が有利となってきます。

(2)退職金・福利厚生

個人開業医が生前に廃業又は死亡した場合、自分自身に退職金を支払うことはできませんが、医療法人の場合は、法人から退職金を受けることができます。
各種福利厚生制度や、生命保険商品を活用した資産設計も検討することができます。

医療法人化のデメリット

医療法人化のデメリットとして、主に次の4つのポイントがあります。

財産権(持分)がない

平成19年に行われた医療法改正により、これから設立される医療法人は「持分の定めのない医療法人のみ」とされました。

出資持分という概念がないため、退社時における持分払戻請求権や、解散時における残余財産分配請求権はありません。
医療法人に蓄積される留保利益は、医療法人のものとなり、その後出資者に帰属することはありません。

また、医療法人は「非営利法人」という位置づけられているため、株式会社のように出資者に対して剰余金を配当することが禁じられています。

運営管理が複雑になる

(1)決算・申告の複雑化

医療法人は病院会計準則に準拠した決算書の作成が求められます。
また、法人税の申告書の枚数や内容は、個人所得税よりも大幅に複雑化するため、独力で作成することは難しく、医療法人の会計・税務に詳しい税理士の関与が不可欠になります。

(2)事業報告書等の提出義務

医療法人は、毎年決算終了後3ヶ月以内に、都道府県知事に「事業報告書等提出書」を提出しなければなりません。
事業報告書等提出書には、次の書類を添付する必要があります。
 ・ 事業報告書 
 ・ 財産目録 
 ・ 貸借対照表 
 ・ 損益計算書   
 ・ 監事の監査報告書

(3)資産の総額の登記

毎年決算終了後、財産目録に記載される資産の総額を登記し、登記後は都道府県知事に登記事項届を提出する必要があります。

(4)法人機関の運営

社員総会、理事会など医療法で定められた組織・機関を設け、法令や定款に遵守した運営を行っていかなくてはなりません。

業務制限がある

医療法人は、「病院、診療所、介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団に法人格を与えるもの」であるため、その業務範囲も、原則としてこれらの開設された施設に限られています。
したがって、診療所経営とあわせて駐車場経営やアパート賃貸などを行っていたとしても、これらを「医療法人において行う」ことはできません。
引き続き個人事業として行うか、MS法人を設立して行うことを検討することになります。

「増税」に働く場合もある

個人開業医の場合、業務上必要な交際費等は全額が必要経費として認められますが、医療法人の場合は損金算入に制限が設けられています。
その他、赤字であっても法人住民税の均等割の納付義務が生じるなど、法人化することにより税負担が重くなるケースもあります。

医療法人化の判断ポイントは?

個人開業医の医療法人化は、「事業展開・運営」「事業承継」「税務上の取扱い」についてメリットがある一方で、「運営管理」という事務コストの増加、「財産権の喪失」という点においてデメリットがあるといえます。

 

もっとも、「財産権」については「所有権が自分になかったとしても、影響力が及ぶ範囲に留まるのであればデメリットにはならない」という考え方もできるでしょう。(この考え方をさらに詰めていくと、逆に「メリット」と捉えることも)

 

医療法人化するかどうかの判断ポイントは「次世代のことも考えて、これから先、いまの診療所・クリニックをどのようしていきたいか」という経営方針が大きな鍵を握っています。 

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